理をはかる

入砂俊重 / メゾン ポール・ボキューズ『オレンジ』についての理

食材は、適した調理法によって最大のおいしさを発揮します。プロの仕事に学ぶ、基本の理(ことわり)。

アール・ヌーヴォー調のバー&ラウンジ、華やかな朱の壁とモノトーンカラーで構成されたエレガントなダイニング、ティファニーのアンティークステンドグラスが印象的なプライベートルームなど、さまざまな食シーンを彩り豊かに演出するフランス料理店。今回は、日本における「ポール・ボキューズ」の総本山、代官山の「メゾン ポール・ボキューズ」が舞台です。ポール・ボキューズ氏のエスプリを表現する入砂俊重料理長が選んだ素材は「オレンジ」。メインの魚・肉料理で主役を引き立たせる、上質の技を教えていただきました。

オレンジは、爽やかな香りと旨みで素材の味を引き立てます

調理法1.魚料理:2つのオレンジソースで魚のおいしさを膨らませる

バターソースは、オレンジエキスで香りと旨みをプラス

POINT.1 - バターソースは、オレンジエキスで香りと旨みをプラス

柑橘類は魚と好相性。特にオレンジは、爽やかな香りとやわらかな酸味、旨み、苦味があり、フランス料理に欠かせません。濃厚なバターソースもオレンジの果汁が入ると香りが華やぎ、深い旨みをもたらします。まず、エシャロットを炒めて白ワインを加えたら、1/5量くらいになるまでしっかり煮詰めるのがポイント。薄いままではぼやけた味になってしまいます。バターを加えるときは分離しないよう火から外して余熱で溶かし、最後にオレンジの果汁を1/20まで煮詰めたエキスと塩、砂糖で仕上げます。

フレッシュソースは、果実の甘味と酸味で味をまとめる

POINT.2 - フレッシュソースは、果実の甘味と酸味で味をまとめる

もう1つのソースは、オレンジの果実感を存分に出していきます。これは「ソース・アンティボワーズ」というサラダ風のソース。トマトやきゅうり、ピクルスなどを細かく刻んで、オレンジの果実もたっぷりと。先に塩や砂糖を入れると浸透圧で水分が出てしまうので、オイルでコーティングしてから調味するのがコツ。ここにも煮詰めたオレンジエキスを加えて味を引き締めます。濃厚なバターソースにこのフレッシュなソースを組み合わせると、まろやかな味になり、魚のおいしさが引き立ちます。

スズキのポワレ 2種のオレンジソース

スズキのポワレ 2種のオレンジソース

コツ・ポイント

魚と相性のよいオレンジを使ったソース2種で楽しむ、スズキのポワレ。下にオレンジエキスを加えた濃厚なバターソースを敷き、上にオレンジの果実感を存分に出したサラダ風のソースをかけます。組み合わせることでまろやかな味に。オレンジの爽やかな香り、酸味、旨みが魚のおいしさを引き立てます。

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調理法2. 肉料理:オレンジの皮の香りと苦味で肉の旨みを際立たせる

皮をいっしょに煮詰めて、ほろ苦いソースに

POINT.1 - 皮をいっしょに煮詰めて、ほろ苦いソースに

鴨や牛などの赤身肉には、ほろ苦いソースを合わせて肉の旨みをしっかり感じ取ってほしい。そのほろ苦さを出してくれるのがオレンジの皮です。砂糖をカラメル状にして白ワインビネガーを加えて煮詰めたら、オレンジ果汁やコアントロー、フォンド・ヴォー、ローリエ、黒粒こしょう、そしてオレンジの皮を入れ、グツグツと弱火で煮て約1/3量に。果汁の酸味や旨みがビネガーと調和し、皮の香りと苦味でコクが増していきます。最後は火からはずしてバターとグランマニエを加え、網で漉して完成です。

シロップ煮の皮とパウダー状にした皮をトッピング

POINT.2 - シロップ煮の皮とパウダー状にした皮をトッピング

仕上げにも皮を活用します。皮はピーラーで薄くむいて、白くて苦いワタの部分まで削らないようにしてください。トッピングは2種類。1つはせん切りにし、シロップで煮て肉の上に散らします。これは甘味とほろ苦さ、肉とともに食べるとクセを和らげ旨みを引き立ててくれます。もう1つは乾燥させてミルでパウダー状にし、皿のリムに振りかけます。そしてすぐテーブルへ。ふわっとフレッシュな香りが、鼻を抜けます。味だけでなく香りも料理の決め手。食欲を刺激し、印象的なひと皿を演出します。

鴨のロースト ほろ苦いオレンジソース

鴨のロースト ほろ苦いオレンジソース

コツ・ポイント

鴨や牛などの赤身肉には、ほろ苦いソースがよく合います。そのほろ苦さを出してくれるのがオレンジの皮。煮詰める段階でオレンジ果汁の酸味や旨みがビネガーと調和し、皮の香りと苦味でコクが増します。トッピングにも皮を活用。シロップ煮とパウダー、煮詰めたオレンジエキスで味と香りを補強します。

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素材を引き立てる隠し味。上手に使い分けて味に奥行きを

素材を引き立てる隠し味。上手に使い分けて味に奥行きを

バターや生クリームなどを重ね合わせて重厚感のあるおいしさを紡いでいくのが、「ポール・ボキューズ」。そのなかでもオレンジは、色々なソースのアクセントとして活躍している、欠かすことのできない食材です。皮のフレッシュな香り、ほろ苦さ、果実や果汁のやわらかな酸、やさしい甘み、コクのある旨み。とてもバランスがよく、料理の隠し味に最適です。今回ご紹介した2品は、オレンジあっての魚料理、肉料理、といっても過言ではないでしょう。

淡白な魚には、濃厚なバターソースと食感や香りのよいフレッシュなソースを重ねます。バターソースだけだとこってりしてしまうし、フレッシュなソースだけでもポワレには少し物足りない。2つが合わさることで、魚の味を引き立てます

味わい深い赤身肉には、ほろ苦いソースがぴったり。そこで重要な苦味を作るのがオレンジの皮です。フランスではもっと苦めに仕上げますが、日本は「ほろ苦い」くらいが好まれますね。肉の種類や好みに合わせて苦味を調節するのもいいでしょう。

オレンジは、もちろんそのままで十分おいしい果実ですが、料理の隠し味として煮詰めたエキスや皮をプラスすると味に奥行きが出て、より本格的な一品になります。ぜひ、チャレンジしてください。

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  • 文:須永久美
  • 写真:キッチンミノル