お酒と料理

江部敏史 / リストランテ コルテジーア 芯のある米の旨味が、合わせる料理の幅を広げる

イタリアの「プーリア州」と聞いて、場所がわかる人はどれだけいるだろうか?

ブーツに見立てた、かかと部分がプーリア。オリーブやブドウはもちろん、豊かな土壌から極上の野菜が栽培される。プーリア料理は、豊穣な大地がシンプルかつストレートに表現されたものなのだ。

そんなプーリア料理を東京・表参道で再現するのが「リストランテ コルテジーア」の江部敏史シェフだ。料理に合わせて様々なお酒を飲むというシェフに、とっておきの日本のお酒を教えて欲しいとお願いして出てきたのは、新潟の日本酒とぐい呑みだった!

日本酒は温度を変えて3度楽しむ。一番合うのは塩をつけたご飯だね

日本酒は温度を変えて3度楽しむ。一番合うのは塩をつけたご飯だね

お酒、なんでも好きですね。仕事の後のビールも、つまみと合わせて飲む焼酎も、休みの日にカミさんの料理に合わせて飲む日本酒もいい。お酒の種類を料理ありきで選んでいます。

お店ではプーリアの料理を出しているので、ワインもプーリア州のものが多いです。プーリア料理の特徴は、食材の味がはっきり出ていること。何を食べているかはっきりしてる、そんな料理です。ワインも「ブドウを食べている」ような感じのものが好きですね。

日本酒は新潟のものが好きです。ワインと比べるとまろやかではあるけれど、しっかりと米の味がして、綺麗な味わいがある。中でも「北雪」は、オーナーさんとも親しくさせていただいているほど特別な酒。特にこちらの純米酒は食事に合わせやすい1本です。

日本酒は温度帯を変えて楽しめるのもいいですね。僕が飲むときは、まずは冷やと刺身を楽しみ、そのまま室温に置いて温度をあげていきながら水炊きなどの鍋物を囲み、最後はお燗酒と雑炊で締めるという“流れ”を作って楽しんでいます。でも食事との相性で、最も衝撃を受けたのは「日本酒とご飯」ですね。新潟へ遊びに行ったとき、同じ土地で作られている米と塩をアテに日本酒を飲んだんです。その米と合わせて飲んだ日本酒のおいしかったことと言ったら! 今でも忘れられない味です。

1.赤ワインと日本酒が、意外の好相性『鶏もも肉の赤ワイン風味』

赤ワインと日本酒は合うというデータが僕には蓄積されています。おそらく赤ワインの渋みや酸味と日本酒の甘みがお互いに寄り合い、補い合うのかもしれません。そこに鶏肉という「旨味」をプラスすることで、より双方が近づきます。

1.赤ワインと日本酒が、意外の好相性『鶏もも肉の赤ワイン風味』

プーリア州の伝統料理である、ウサギの赤ワイン煮込みを鶏でアレンジして作りました。タマネギ、トマト、赤ワイン、鶏肉と、香味野菜で構成されていて、見た目にもとてもシンプルでしょう。作り方もとても簡単。けれどきちんと再現しようと思うと、玉ねぎは炒めないで軽く煮込むことで(玉ねぎの)甘みを出し過ぎない、など、細かく言えばコツだらけの料理、というのも特徴と言えるかもしれませんね。

2.塩辛的パスタをつまみに『アンチョビとケッパーのスパゲティ』

日本酒と塩辛は鉄板の組み合わせですね。2品目は、そのイメージからイタリア的塩辛のアンチョビとケッパーをパスタに入れました。お酒のアテとしても、シメとしても食べられるパスタです。

2.塩辛的パスタをつまみに『アンチョビとケッパーのスパゲティ』

このパスタ料理もプーリアではおなじみですね。旬の時期には、プーリアの友人からケッパーを送ってもらっています。もちろんシチリアや他の地域にも美味しいケッパーはあるけれど、友人が作っているものは気持ちが、心が食材に詰まっているように感じられて、そんな食材を扱うことが嬉しく誇らしくなるのです。

作り方はいたって簡単。ニンニク、アンチョビ、ケッパーをオリーブ油で温めて、アンチョビを崩してペースト状になったら茹でたパスタを絡めます。

アンチョビは塩辛、ケッパーは漬物のような旨味があり、また塩気もビシッと効いています。まろやかな印象の日本酒との相性の良さは言わずもがなですね。

ナチュラルな料理と酒、そして飾らない人に惹かれて

1994年にイタリアに渡りました。イタリア語の先生がプーリア出身だったという理由で行ってみたのが、僕とプーリアの出会いです。プーリアの料理人たちは喜怒哀楽がはっきりしていて、野生的。仲が良くなると、いつも家族のように気にしてくれていて、僕はそんなプーリアの人たちにすっかり魅了されました。

食べることを大切にしていて、それも普段そこにあるもの、例えばパン一切れでも美味しく味わう術を知っている。あるワイナリーでは、パンに半割りのトマトの断面を刷り込んで「これが美味しいの」と出してくれました。一口食べたときの、身体中に電流が走るような衝撃といったら!

ナチュラルなプーリア料理には、どんなお酒も受け止める懐の深さのようなものがありますね。手順も、揃える材料も簡単なので、ぜひ試してみてください。

鶏もも肉の赤ワイン風味 と アンチョビとケッパーのスパゲティ

鶏もも肉の赤ワイン風味 と アンチョビとケッパーのスパゲティ

コツ・ポイント

鶏もも肉の赤ワイン風味は、鶏肉を綺麗なきつね色までソテーすることがポイント。肉を焼いて出た脂は一部取り除きます。

アンチョビとケッパーのスパゲッティは、ケッパーが塩漬けの場合、酢漬けにするなどしてある程度塩抜きをすること。アンチョビをしっかり煮溶かすこともポイントです。

北雪

北雪

分類:純米酒

原材料:米、米麹

米の品種:五百万石

精米歩合:麹米55%、掛米60%

アルコール分:15%

北雪酒造/明治5年、新潟・佐渡の港町赤泊で創業した蔵元。熟練の技を継承する一方、地下蔵で音楽を聴かせた音楽酒、超音波振動を与えた超熟酒、酒にストレスを与えない遠心分離機を活用した搾りなどイノベーティブな酒造りにも意欲的に取り組む。地元契約農家と連携して、棚田で「五百万石」や「越淡麗」などの酒造好適米を育てるといった取り組みも。五百万石で造られた「純米酒」は、どんな料理にも合う、後口爽やかな辛口だ。

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  • 文:柿本礼子
  • 写真:牧田健太郎